残暑を乗り切る赤「貴州の辛さ」

今年の夏も暑かった。暑いを通り越して、もはや熱い。そんな酷暑を私が乗り切れたのは、冷たい麺でも、かき氷でもない。唐辛子たっぷりの真っ赤な料理だ。

私は自他ともに認める暑がりなので、夏は冷たいものばかり食べている。だけど辛いものだけは別。冷たい料理よりも、やけどしそうなほど熱々で食べるほうがおいしいと信じている。額の汗を拭い、袖をまくり、背中までぐっしょりになり、ときにTシャツを脱ぎ捨てたい気持ちになりながら、それでも食べ続ける。もはや苦行。だけど、それが夏に辛い料理を食べる醍醐味だ。
辛い料理といえば有名なのは四川料理。だけど中国には、「四川人は辛さを恐れず、湖南人は辛くとも恐れず、貴州人は辛くないものを恐れる」という古くから伝わる言葉がある。それほど貴州の人々は、筋金入りの辛いもの好きということだ。そして私にとって、この貴州料理は辛い料理の最高峰だ。
新小岩にある貴州料理店の女性店主によると、貴州は雨が多く、湿度の高い土地で、汗が蒸発しにくく、体の熱も逃げにくい。そこで辛いものを食べ、強制的に汗をかくことが、健やかに暮らすための食の知恵として根づいたのだという。さらに山に囲まれ、かつて塩が貴重だったことから、辛味や酸味で代用し、旨みを引き出す発酵文化も発達したという。土地の気候と暮らしが、強烈で複雑な辛い料理をつくりあげたのだ。
貴州には唐辛子の一大産地があり、いろいろな種類の唐辛子があるという。それを料理によって使い分けたり、乾燥させたり、発酵させたりすることで、さまざまな辛さを作り出している。

発酵させたトマトや唐辛子の赤いスープで魚を煮る「酸湯魚(スアンタンユイ)」、たっぷりの干納豆と肉や野菜を煮込んだ「豆豉火鍋(ドウチフゥオグゥオ)」、発酵唐辛子や酒粕などで白身肉を煮込んだ「糟辣魚(ザオラーユイ)」。どの料理もひと口目で舌が驚き、二口目で汗がにじみ、三口目にもなると、もはや体の内側から辛さを感じ始める。
大げさだと思うでしょ? でも、貴州料理は湯気ですら、むせるほど辛い。赤くない料理も辛い。発酵唐辛子ペーストに至っては、箸先につけて舐めただけで、悶絶するほど辛い。
だけどしばらくすると舌が辛さに慣れてくる。そうなれば、こっちのもの。辛さのなかに秘められた旨みや酸味を感じられるようになり、箸が止まらなくなる。
こうなると暑さから逃げるどころか、暑さに飛び込んでいる気さえする。けれども、夏の暑さに鈍っていた体が、その刺激にたたき起こされたようで、食後は妙な爽快感が残るのだ。

ちなみにこの店の女性店主は、年齢を感じさせないほど肌つやがよく、とにかくエネルギッシュ。そう、私にとって貴州料理は、暑い季節の元気と美の元なのだ。
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神奈川県横浜市出身。ファッション誌や生活情報誌、女性誌などを経て、独立。ウェルネス、スポーツ、ブライダル、ジュエリー、ビューティ、旅、グルメ、インタビューなどさまざまなジャンルを担当。

